あんちょこちゃん

あんちょこ

自分のために書き留めておく場所

半音低くなった世界で過ごす

 デレステでは怒涛のカレーイベントが始まっていた。最近ログインしていなかったので気づかなかったが、我らがポジパの我らが天使高森藍子ちゃんがポイント報酬であった。なんとしても完走せねばならない。それこそカレーを飲み物として飲みまくる勢いで。しかし人のやる気に水を差すようなできごとは、こういう大事なときに決まって起こるものである。

 さあ走るぞとアプリを立ち上げたところでスタート画面のタイトルコール「アイドルマスターシンデレラガールズ!スターライトステージ!」に違和感をおぼえた。続いてログインボーナスをもらうページのBGMが流れ、いつもと違うことをはっきりと認識した。さらにホーム画面へ遷移し、そのBGMを聴いて確信した。

 音が低い。

 

 疾風怒涛の勢いで活動範囲を拡大するインフルエンザ菌の波にのまれまいとあっぷあっぷする今日この頃だが、職場ではそんな悪玉菌に敗れバッタバッタと倒れてゆく職員に囲まれて過ごしている。マスクをしていようが手洗いうがいを徹底していようが感染するときゃするのである。

 鼻がつまる。頭が痛い。おまけに微熱が出たところでヤバみを感じたので内科に行った。ただ喉は痛まないうえ咳もむせたくらいしか出ない。微熱は微熱のままである。病院は漏れなくマスク着用の老若男女で文字通り溢れかえっていた。待合室のベンチは満席であった。診察券提示ののち体温を計り(やはり微熱程度)、壁に寄りかかりつつ立って待つこと数十分、やっと名前を呼ばれた頃には冷や汗だらだら頭くらくらの満身創痍だった。

 結局、喉の異常もなく食欲もあるのでただの風邪とみて様子見程度でよいでしょう、鎮痛薬と咳止め出しますね、で診察は終わった。その日の昼食後から薬を服用しはじめた。

 

 スマホの音に違和感をおぼえたのは、その日の夜であった。ポンッと一瞬だけ鳴るLINEの通知音が低い。デレステ以外のリズムゲームの音楽も総じて低い。あまりにも気持ちのよくない違和感であった。低い低いと騒いでいたら、いやなんにも変わんないよと彼氏に一蹴された。おかしいのはわたしの耳だけだったのだ。

 スマホのスピーカーの不具合なのではないか。他にも同じ不具合で苦労した人がいないかなとネットで検索「iPhone、半音、低い」。するとおばあちゃんの知恵袋がまたしてもわたしに解決への道を示してくれたのだった。

 

 風邪薬が原因だったのである。

 正確には、咳止めのフラベリック錠の副作用である。

 フラベリックさんの副作用のうち、「聴覚異常」という文字通りの副作用が存在する。おばあちゃんの知恵袋はこうも言っていた、「特に若い人がこの症状に気づき訴えやすい。しかし患者の申告で発見された副作用であるためその頻度などは不明であり、この副作用を知らない医者も少なくない」みたいなことを。このフラベリック錠副作用の話はツイッターでも昨年中に何度か話題になっていたらしい。音楽を生業とする人はこれが処方されないように自衛しなければならない。なぜ苦しい思いで病気と闘っている側が自衛せにゃならんのだ、専門家が気をつけてあげてほしい、そう思わなくもないが専門家も必ずしも万能ではないのだ。自衛心を装備しておいても損はない。

 

 フラベリックさんとのお付き合いが続くうちは、半音だけ低くなった音の感覚のなかで過ごさなくてはならない。音楽を生業にしているわけではないが、聴き慣れているリズムゲームの音楽がいつもより暗く聞こえるのは精神的につらいものがある。咳が出なくなったら即、服用を中止して然るべきだろう。

 怒涛のカレーイベントを営業でちまちま歩いているわたしであった。